ホテルの四つの鍵

 バレンシア(スペイン)でのエス会事務所での鍵の経験を生かして、大きな鉄格子の門扉にあるボタンを押すと、男性の声が聞こえた。「エスペラント、ヤパーノ」と答えると、扉を開けることが出来た。
 敷地内に入ったが建物が幾つかある。どの建物かとたたずんでいると、マスターとおもわれる白髪の男性が、中央の建物から笑顔で入口のドアを開け、私に手招きをした。私も手をあげて笑顔で近づいた。

 ここも古い建物なのでエレベータなど無い。おまけに結構急な階段だ。なんと3階まではアパートで、4階と5階がペンションだった。
 重い旅行カバンを片手に下げ、マスターの後から、やっと階段を上りきると、4階フロアのところに鉄格子がある。客以外の人が侵入しないための関所だ。
 私の部屋は階段から直ぐ近くにある部屋だった。ここには1泊のみだが、受入者C氏がエスペラント会の費用を使って、私を無料で泊めてくれたのだった。

 白髪の主人から渡されたメモ書きには「部屋で待て」というG氏のメッセージがあった。そして主人は、私の到着をG氏に電話してくれた。

 主人から受け取ったのは4つの鍵だ。通りに面した鉄門扉の鍵、建物の入口の鍵、階段を上がった4階の関所(鉄格子)の鍵、そして私の部屋の鍵だ。2つの鍵が良く似ている。主人が手招きして私を門扉まで連れて行き、鍵をひとつずつ実際に使って教え、私にも試させてくれた。

 15年前プラハの世界エスペラント大会参加の直前に、フランクフルト(ドイツ)郊外のパスポルタセルボ会員宅に泊めてもらったが、幼稚園児の女の子が、なんと6つの鍵を持っていたのに驚いたことを思い出した。
 建物の入口、郵便受箱、部屋のドア、自分の部屋、浴室そしてトイレ。大人はそのほかにエレベータの鍵も持っていた。流石にミュンヘンで泊めてもらったアパートのように、部屋のドアの鍵を2回転しなければならなかったほどには、今回は驚かなかった。