城跡の青空夜間映画館

[次の順番に読んでください。]
 1.野生狼公園(ALPHA)へピクニック
 2.V夫妻と二人の子供
 3.城跡の青空夜間映画館
 
 今夜11時に映画が始まると言うので、急いで夕食の後片付けをした。映画が終わって深夜に帰宅するので、明日のための旅行カバン詰めをし、忘れ物が無いように部屋のテーブルに集めた。まだ雨が小降りだったので傘を1本借り、V氏の運転する車で、雨にぬれた真夜中の山道を、城跡のある小高い丘まで駆け上がった。

 途中の山道には夜間灯もなければ、ガードレールもない。流石にV氏の運転は上手い。小高い山の頂上が会場で、その近くまで上って来たが、何台もの車が少し手前の坂道の脇に駐車していた。彼は1台分の空地を見つけると私達2人を降ろして、いとも簡単に縦列駐車をした。

 会場まで5分ほど歩いて上ると、発電機で供給された裸電球が、宙吊のコードにぶら下がっていた。並べられた鉄製のパイプ椅子は、座席の部分にまだ水が溜まっていたり、塗れているものもあった。V氏が持ってきた布で拭いた後、新聞を敷いて座ることにしたが、鉄椅子の冷たさには困った。

 きっと寒くなるだろうと、私はセーターを着込んだ上に、ビニールのジャンパーを羽織ってきた。会場が結構高い所にあるのだろう、かなり冷え込んでいた。約10mほどの分厚い土壁のみが残されていて、それが確かに城跡だと証明していた。夏休み期間中で、毎年この日に1回開催される城跡の映画祭には、子どもたちが沢山集まってきた。

 出し物がふるっていた。私が好きな喜劇で、主役は、かの有名なバスター・キートン。日本でもその名にあやかって松田喜頓(?)という俳優がいたことを直ぐに思い出した。勿論ドタバタ喜劇の無声映画だ。弁士がいない代わりに字幕スーパーが出た。私には解らないが、映画も万国共通だ。なかでも私が喜んだのは、伴奏をした3人組の若者だった。ベース、サキソホン、ドラムス。全てアドリブで一時間余りを演奏しきった。

 映画が終わる前に雨は止んでいて、空には少しばかりの星も見えていた。V夫妻は知人と別れを告げて、私を乗せて帰路に着いた。シャワーを浴びてベッドに横になったのは、もう真夜中の2時を過ぎていてた。