事務所近くの街を散歩

 半開きの窓から朝の風が気持ちよく入ってきた。今日も快晴の予感。昨夜買っておいたパンと牛乳と日本で日ごろ飲んでいたアクエリアスをソファーの前のテーブルで食べた。

 9時半になると約束通り、エス会の長老R氏が観光案内のため事務所に来てくれた。建物に入るため、門扉を開けてくれというブザーの合図。A氏に教えてもらった通り、部屋の入口にある大きな黒いボタンを押した。3〜4分して階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアをノックする音が聞えた。私は内側からノブを廻してR氏を迎え入れた。

 「Saluton」と簡単な挨拶の後、何処へ行きたいかと訊かれたので、歩き過ぎて脚が少し痛いので遠出は無理だが、芸術関係や、市場や、皆が集まる場所に興味があると答えた。
 R氏は「実は自分も足の親指が変形して痛み、明日にも手術しなければならない」と言って傷ついている足を私に見せた。そんな状態で私を案内してくれることに、大変申し訳なく感じた。

 ここから駅までの通りの横手に、そんな場所があるからと案内してくれた。歩きながらR氏は退職しているが元鉄道員だと話してくれた。

 一方通行道路の両側に建っている家の壁を、自動車が削りはしないかと心配するほど狭い道へ入り込んだ。衣服店が多くいろいろな店も並んでいた。焼物の店があったのでちょっと立ち寄り、店に並んでいた日本の焼物の値段を聞いてみると結構高い。R氏が日本からの観光客だと店員に話し、焼き物について少しばかり雑談した。

 果物や野菜市場には沢山の品物があった。洋品店には、日本では見ない艶やかな柄の布地がショーウィンドウにぶら下っていた。モダンなアートの店もあった。しかし夫々の店は間口が狭く次から次に並んでいた。

 世界中で1番細い建物や、教会や、現在も人が住んでいる古い時代の建物など、路地裏には幾つもの歴史がまだ生きていた。

 入り組んだ道を何度か曲がって小さな店の前に出た。ここのデザートは特別美味しいんだ。他の店にはなくて、この店だけの品なので記念に食べよう、とR氏の勧めで2人席に着いた。

 R氏は馴染みの客らしく、注文すると直ぐにデザートがきた。冷たくてアイスクリームとヨーグルトの中間みたいな固さて、トロリとした甘さは、とても美味しかった。

 やがて正午近くになりA氏の家に二人で向かうことになった。