出来立てのペンション

[「鼓笛隊と祭り」の前に、ここを読んでください。]

 イルン駅に着くと直ぐに切符売り場へ急いだ。小さな駅なので20mほど離れた近くに見つかった。マドリードまでの座席指定券はすぐに買えた。

 駅を出てホテルを探さなければならない。駅の近くで歩いてきた若い2人組みの女性に「ホテルはどこ?」英語で訊ねると、町の方へ真っ直ぐ行って橋を渡れば見つかると、言っているようだった。礼を言って旅行カバン押しながらネオンで明るい方向へ進んだ。橋を右に曲がって川沿いに歩くと、ペンションの横文字が見えた。安いホテルを探す時間も余裕もない。最初に目に入ったホテルに決めようと急いだ。

 ペンションのドアを開けて入ったけれど誰もいない。造りは新しくて明るい。大声で「マスター」と叫んでみた。呼び鈴を2回ほどたたく。奥から若い小柄の主人が急いで出てきた。
 一人一泊できるかときくと、OKだという。部屋は2階だというので、旅行カバンをカウンターに置いたまま、2階へ上ろうとすると、主人が上にもって上がれという。きっと盗難を心配してくれたのだろう。旅行カバンは重すぎるので、下でよいと答えて主人について上がった。

 ひとり用はこの2部屋だけだと言うので、ひとつ目を覗くと綺麗だ。私にとっては寝るだけの場所でよいから、その部屋に即決した。宿代は35ユーロ。これも承諾。パスポートの控えの紙を見せて宿泊カードに記入し、ドア開閉の磁気カードを貰う。金を払って2階へ上がる。外はもうすっかり暗くなっていたので、とにかく夕食のため街へ出なければならない。別に持ってきたショルダーバッグを、旅行カバンから取り出して部屋の外へ出た。

 ところが何度やってもドアがキチント閉まらない。まさに昨日出来上がりの建物のように、ドアのサイズがキッチリし過ぎて、締まりが悪いのだととっさに思った。数回閉めるのに大きな音を立てたので主人が、何事かと駆け上がってきた。
 私の身振り手振りの説明を聞いて、カードを作り直そうという。私が「いや、締まりがキツイだけだ」と言って、ドアに身体を預けて閉め直すと上手くゆき、主人も納得した。町から戻ったときの入口ドアの開け方も主人に教わった。

 夕食後に戻り、よくよく部屋の内部を眺めると、ベツドとバスタオルとタオル以外には何も調度品が無い。服掛けのフックが3っつ、ベツドの頭側の造り物としてあるだけだ。
 シャワーのカーテンは短い上に、シャワー室と部屋の床との区切りは、僅か5cm位の段差しかなく、シャワーを使うと、短いカーテンの下から、水が部屋側に噴き出してきた。
 ゴミ箱も、椅子もテーブルもまだ無い。なんと数日後に出来あがるペンションだったようだ。扇風機さえも置かれていない。道路側のカーテンも無いが、シャッターが付いている。私は下から30cm程開けたまま寝た。