最後の夕食

 最後の夜だというので、3人で近くにある日本レストランへ出かけた。2人は度々利用するのだという。そこは若い韓国人夫婦が経営する食堂だった。
 彼女は鉄火巻きを注文し、彼はボリュームのある丼物を頼んだ。私は定食を試しに食べることにした。どれも約10ユーロだった。

 注文してしばらく雑談していると、なんとエスペラント会事務所で出会った男性が入ってきた。彼はご飯と生卵が好きだという。ほかに味噌汁を頼んだ。

 メニューの中に冷奴があったので「食べたことがあるのか」と聞いたら「ない」という。私が注文し食べ方を教えた。一丁を4つに分けて、付いてきた摺り生姜を少しずつわけ、醤油を少しずつ掛けて、食べるようにすすめた。

 生ものに少し不安そうだったが、口に入れると「ボングスタ(美味しい)」と3人とも言った。「これはこれからメニューに入るな」と言うのが彼らの言葉だった。

 彼女の鉄火巻きには、小皿に醤油を少し注ぎ、その中にワサビを少し混ぜて溶かせ、鉄火巻きの切り口を少し浸して食べるようにすすめた。このようにして食べるのは初めてだと彼女は言い、とても美味しいと喜んでくれた。

 知人の男性に運ばれてきたご飯に、彼は箸(はし)を突き立てたのには驚いた。
 日本ではその様な作法はしないことを話し、「死んだ人の仏前に立てることはあるようだ」といったら彼は驚いていた。
 そういえば韓国では、そんなことをしていたような気もしたが、定かではない。

 寿司と刺身のメニューを貰って、記念に持って帰った。
 両替したユーロが私の財布にかなり残っていたので「この夕食は私に支払わせてほしい」と言ったら、3人がなかなか承諾しそうになかったので、私がユーロを持ったまま帰国しても、日本円に両替しなくてはならない。お世話になった少しばかりのお礼の印なので、私に支払わせてほしいと強行に押し切った。