二人の子どもと碁並べ(五並べ)

 夕食まで時間に余裕があった。二人の子どもに、なにか日本の遊びを教えようと、子どもの声がする遊び部屋を覗いた。紙と書くものはないか、と二人に手振りとエスペラント語で話しかけた。母親Mさんの話しでは、歳上のA君は簡単なエス会話が出来るし、幾つかの単語ならば歳下のJ君も理解できる、と前に私は聞いていた。私が初めて出会う「デナスカ エスペランチスト(生まれながらのエス語使用者)」だ。

 私に呉れた雑記帳の1ページに、ボールペンで碁盤目のように線をタテとヨコに何本も引いた。白丸と塗りつぶしの黒丸で、交互に1回ずつ記しを書きながら、早く五つ並べた人が勝ちだと説明した。
 途中で三つ並んだら、必ず相手に「トゥリイ(3)」と言って知らせなければ成らない規則も説明した。勿論私が知っている言葉はエスペラント語だけで、フランス語など全く話せない。

 実際に、私がひとりで解説しながら、「五並べ」をして見せた。二人の子どもは、それなりに解った様子なので、まずA君と遊んだ。その後でJ君と遊んだ。私が見守りながら、二人に競技させ、その都度アドバイスをしたら、あまり問題なく遊べた。
 興味を抱いた二人は、5〜6回やってみると、ゲーム感を身に着けたようで、何度も線を引き直して遊んでいた。紙とボールペンがあれば、いつでも、どこでも遊べることを話し、9月に学校が始まったら、クラスの友達と皆でゲームしたら、きっと面白だろうと話した。

 夕食前の時間、テーブルについていた私にA君が教えてほしいとやって来たので、D氏がエス語で私に通訳した。その質問は「将軍とサムライは、どのように違うのか」ということだった。私もちゃんと考えたことの無いっ問題だ。

 子どもに解りやすい回答は何だろうかと一瞬考えたのち、「将軍は、全てのサムライの最高位で、ひとりしかいない。サムライは大勢いて、武士の別の呼び名と考えたらいい。武士は戦争が始まると、国のために働く戦士だ」と答えた。これが正解ではないと思うが、子どもたちには、イメージが湧くのではないかと思った。

 今晩私と別れるので、二人で画用紙に書いた鳥の絵をプレゼントしてくれた。デッサンはA君、カラーペンで色を塗ったのはJ君。思わぬ贈り物は、私の旅の宝物のひとつになった。
 お礼に私も部屋の見えるところを取り入れて、ボールペンで絵を描いて二人に渡した。十分な時間があったら、本当は墨絵を描いて二人にあげたかったのだが出来ず残念だった。実は少量の墨汁と小筆を一本、今回の旅行のために持参していたのだ。