ボルドーへ続く運河

  空には少しばかり雲があるが薄く青い色が広がっていた。やはり今日も晴れだ。朝食をとりながらP夫人の質問が続いた。
 「サクラを観るために、是非とも日本へ行きたいが、一番良い時期はいつ頃なのか」との質問だ。「私が住んでいる日本の南部の島九州では、3月末〜4月頃が良いが、日本はタテに細長いので、サクラは次第に北へ向かって開花の日が移って行く」と説明した。

 日本の梅雨時期(6月〜7月上旬)は湿気が多く、雨も多量に降るので、観光には適していない、という情報も伝えた。秋は9月末から11月がよく機木々の紅葉も見所だと話した。出来れば来年行きたいと彼女は話した。

 日本に来るときは、桜が咲く時期になったかどうか、事前に確認した方がよい。また風が桜の花びらを、雪が降るように散らすとき、桜の木の下に立つと、素晴らしい世界を観ることが出来るだろう、と私は説明を付け加えた。

 P氏が車で観光案内をしてくれた。途中のボランティア事務所で働いている夫人を降ろしたが、夫人は高齢者支援の分野で登録し活動していた。街には大きくはないが明るい店が並んでいた。

 私たち二人は、かなり離れた場所にある運河の跡を観に行った。途中にブドウ畑が幾つも続いていた。ボルドーで見たの同じように、緑のブドウの房が、幾つもさがっていた。

 運河の仕組みが残っている観光場所に着くと、かってこの場所からボルドーまで運河が続いていて、ブドウや葡萄酒を船に積んで往き来していたと、彼が説明してくれた。現在は小型観光船が動いている。
 両開きの分厚い扉を閉め、流れてくる水を十分に溜め込むと、前方の扉を開き、ひと区間上流に進んだ後に、観光船の後部の扉を閉める。この方法で観光船は進んで行くのだという。私たちは乗船しなかったが、10数人の観光客が旅を満喫していた。

 正午近くになって夫人の勤めている事務所まで戻り、3人で古い町並みを歩いた。細い路地を幾度か曲がると、建物の間を吹き抜ける風が涼しく、とても気持ちよかった。思えばボルドーでM氏が街を案内してくれたときも、建物の谷間の歩道を歩いたが、やはり冷たい風はとっておきのご馳走だった。

 夫妻の馴染みの食堂で、ゆっくりと昼食をとった。レストランを出て、幾つか上り下りの石畳を歩き、古い建物や教会を巡り、やがて帰宅した。

 夕食時に雑談が弾んだ。エスペラント語の学習は、日本人にとって難しいのか、という質問が出た。この質問をこの1週間何度も聞いた。日本人は小学校でローマ字を習う。その文字綴りはエスペラント語の綴りとよく似ている。例えばエス語の「kato(カート)ねこ」はローマ字で「カト」と発音する。

 母音は5つで、「あ、い、う、え、お」とエス語の「ア、エ、イ、オ、ウ」と同じだ。残念ながら「子音」が日本語にはないので、子音発音は上手くない。しかし出来ないわけではない。
 さらに、本来の日本語発音には「R、ラ」はあるが「L、ら」はない。だから「L」の発音に慣れるまで時間が掛かる。多くの外国人が「日本人は”L”の発音が出来ない」というけれど、それは誤りで、日本語では通常発音しないだけである。

 日本に来た英語圏エスペランチストに数人会ったが、何人かは「C」を「ク」とたびたび発音していた。フランス人は単語の最初の「H」を発音しないようだ。だからエス語にもその習慣は出てくる。私の名前は最初が「H」で始まるが、「H」を発音せずに名前を読まれたこともある。こんなことは夫々の文化の違いから来るもので、大した問題ではないと思う、と答えた。

 明日(3日)は9時頃の列車で、次の街コンテへ向かう。お礼に日本語が書かれている小さなタペストリーとセンスを渡した。勿論シャワーを浴びて寝室に戻った。