列車の中の出来事

Plano: 〔(30an) de Madrid(Pta de Atocha, Hispanujo) <Alaris1094 (09:00)> al Valencia(Nord, Hispanujo)(12:25)〕
Realo:  〔29an〕 de Madrid(Chamaratin, HIspanujo) <Train=1414, Voiture=01, Place Assise=5A (08:25)> al Valencia (Nord, Hispanujo)(14:47)〕
−−−
 今日も晴れ、いや快晴だ。列車の中は冷房が効き過ぎている筈だと推測し、冷房に弱い私はホテルから上着を羽織って出た。ボルドー駅まで、ゆっくり歩いて10分もあれば十分だった。ホームへ入る前に、昨日買った切符カード(指定席券)をパンチ機に差し込んで、今日使用する証明の日付が切符の端にプリントされたことを確認した。

 しばらくの間、発着時刻表示ボードの良く見える場所に立ち、駅に集まった人々の服装や動きを見ていた。いろいろな国の人たちだと分かる服装や顔付を、私は何故か楽しんでいた。朝食用に野菜やスパゲティや少しばかりのソーセージを挟んだパンとガスなし水500ml1本を駅の売店で買った。

 列車の中は座席も広く綺麗だった。列車に入った直ぐ近くの両側に、3段の荷物置き場があり、降りるときに取り出し易いように、下段に旅行カバンを立てて押し込んだ。この列車には昼食サービスがセットされていて、23.5ユーロを切符を買うときに支払った。1ユーロ=135円で換算すると約3200円、だいぶ高すぎる。どんな食事が出て来るのか少し疑わしい。

 走り出した列車の外には、広々とした平原が続いた。勿論途中の駅近くには町があった。車窓から見る遥か彼方の高速道路には大型トラックが何台も走っていた。列車の中から写真を撮るため、窓ガラスにカメラのレンズ部が密着するように押し付けてシャッターを切った。

 線路沿いに生えている雑木が邪魔になって、なかなか良い写真が撮れない。何度か挑戦するうちに要領を覚えて、高い雑木が通り過ぎると直ぐにシャッターを切った。また電柱が窓から消えると同時にシャッターを切った。これは次第に上手くなった。

 珍しい景色も余り見えなくなったので座席の肘掛を見ると、イヤホンを差し込む穴がある。座席のポケットにはイヤホンは見当たらない。調度そこへ車掌が来て、希望者にイヤホンを配って歩いた。私もひとつ貰って小箱から取り出し、ジャックに差し込んだ。チャンネルは4つある。1つ目は雑音が多くて良く聴こえない。2つ目は無音だ。3つ目は音楽が流れていて、はっきりと聴こえた。

 やがて音楽が終わり男性の声が聴こえた。アクセントでスペイン語だと想った。どこの外国語も解らない私は、ただ何となく聴いていた。すると「エスペラント」という発音が耳に入った。おやと思っていると今度は「ハシグチ」と確かに云ったようだ。

 まてまて、スペインのラジオか有線か知らないが、「エスペラント」と「ハシグチ」という言葉が聴こえるとは、私のこと以外に無いだろう。数分後に男性の話が終わり、数秒間静かになって音楽が流れ始めた。

 なんと尺八の音ではないか。それも昨日(28日)私がR氏に渡したCDの収録曲「江刺追分」に間違いない。ゆったりとした、身体の中に沁み込むような、太くて重厚な尺八の音は、実に荘厳といった感じだった。スペインの人々はこの日本のユニークな音楽を、どのように感じてくれただろうか。私の心も高揚して誇らしい気持になっていた。

 昼食サービスは本格的なものだった。ホイールに包まれた牛肉の煮込み、スパゲティ、サラダ、野菜の煮物。オリーブオイル、ソース、ケチャップ等は小瓶で出された。勿論スープもあり、コーヒーとビールとワインはお替り自由だ。切った果物も付いていた。美食家でない私には、この料理内容が価格に相当するものかどうか判断しようも無い。薄味が好みの私にとって、濃い過ぎるくらいだった。

 前述のとおりだが、昼食セットの切符だということを忘れていた私は、乗車前に買ったパンとジュースを食べてしまっていた。それで美味しそうなものだけを、少し無理をしながら食べた。これも大失敗のひとつである。