駅からタクシーでアパートへ

 重たい旅行カバンがあるので、タクシーを使うことにして、調べておいた住所を運転手に見せた。住所の記述を指差すと、だいたいの場所は分かるようだったが、住所の細かいところは不明だった。

 この辺りだと云う場所で、徐行しながら建物をひとまわりすると壁に貼られた住居表示が目に入った。後にD氏から聞いたのだが、この区画一帯の通りには、有名な人物(大統領など)の名前が付けられていた。

 タクシーを降りて、アパートの入り口で、部屋番号のブザーを押すと直ぐに声がして、日本から来たのだと云えば、身体の都合で重たいものを持てない状態なので、5階まで上がってくるようにと返事かあった。勿論このビルにもエレベーターはない。

 やっとのことで部屋までたどり着き、チャイムを鳴らすと、中から若いD氏が出てきた。足元に小さなかわいらしい女の子が立っていた。
 部屋に上がって話を聞いたら、つい1週間ほど前に盲腸の手術をして、明日まで休暇をとっていた。メールを私に送ったのだが、私は旅の途中でメールを一度も開いていない。
 大変申し訳なく、体調は良いのかと訊いたら、3日後には仕事にでるので問題ないとの返事だった。

 D氏夫人は、生まれてまだ数ヶ月しかたっていない赤ちゃんに、乳をあげたり、オシメを変えたり、その上2歳の女の子の世話もしなければならず、忙しい毎日のようだった。
 彼女はエスペラント語を話さないが、D氏がエス語を使用して外国旅行をして経験を話したのだろう、出来たらエス語を勉強したいと話してくれた。

 部屋の窓から外を見ると、直ぐ近くに大きな木が繁っていて、カラスがとまっていた。
 「少し離れた場所に散歩にはよい観光場所もあるので、休憩したら出かけるといい」と勧めてくれた。
 一人でぶらりと出かけたが、空模様も曇り空となり、あまり気がすすまなかったのでアパートへ戻り、明日ゆっくりと観光に出かけることにした。