珍しい待ち人

 ブタペスト駅に着くと、いつものように最後に降りてゆっくりとホームを駅舎の方へ向かって歩き出した。すると目の前に小柄の女性と男の子が現れ、「こんにちは」と日本語で私に挨拶した。突然の挨拶に、Lさんの知人が迎えに来てくれたのかと思ったら、「私、Mです」と告げられた。私のブログを読んでいて、予定の列車に乗っていたら、この時間にブタペストにつく筈だと考え、会えるかもしれないと、男の子と二人で出迎えに来てくれたのだ。

 Mさんは現在パリに住んでいて、私が今回の旅行の最初の日にパリについて、受入者との待合場所であるモンパルナス駅までの行き方を、メールで助言してくれた人だ。

 それ以外に私と彼女とは協力して、エス語・フランス語のポケット版辞書の作成作業を2年前からしていた。フランス語が全く解らない私は、協力者を探していたところ、彼女が協力を名乗り出てくれたのだ。
 この小さな辞書の原本はエス語・日本語版だ。私の文通相手のトーゴ国のG氏が、校長を勤める学校の生徒達へ贈呈するため「エス語・フランス語版」を作成しようと計画したのだ。
 フランス語部分の単語の拾い出しは、私がインターネットで公開されている辞書から抜き出し、その単語が適当がどうかについて、Mさんが作業してくれていた。

 情報案内所の前で私は待っていると、受入者のLさんに伝えているので、暫く三人で立ち話をしながら待つことにした。
 15分ほど待ってもLさんに会えなかったので、Mさんが携帯電話で相手を呼び出してくれた。Lさんは仕事中らしく、1時間経ったら駅に行けるとの返事だったので、切符売り場の近くのベンチに座り日本語で雑談した。

 彼女は仕事と避暑を兼ねて、パリからブタペストに来ていた。私が日本を出る前に、私のブタペスト訪問と同じ頃、彼女もブタペストに行く計画だと、このブログに書いていたのを思い出した。
 しかし、実際にここで会うとは想像もしていなかった。この3週間に経験した色々なことや、珍しいことを話した。右足の痙攣、マドリードでのサッカー試合のテレビ観戦、バレンシア行き列車の中で聴いた尺八のCD、南フランスでの野生狼公園と山上の野外映画館、トリノでの4つのカギのホテル、イルンでのタテ笛の祭り、ブタペストへ来る汽車の中の韓国人大学生。

 10歳のT君は明るくて、ひと目で賢そうな子どもで、私の話を興味深く聴いてくれた。滞在中に困ったことがあったら助けに来るからと、電話番号を教えてくれた。残念なことに二人の写真を撮るのを忘れてしまった。

 やがて、Lさんとの約束の時間になったので、また情報案内所の前に戻った。暫くするとMさんの携帯電話が鳴った。相手はLさんのようだ。私に代わると、直ぐそこへ行くからと言うので、そうかと返事していたら、体格の良い丸顔の女性が私の顔の前に突然現れた。彼女は携帯電話でイヤホンを使い、話を続けながら私に近づいて来たのだった。

 お互いに名前を確認し、Mさんも日本人のエスペランチストで、今日(15日)初めて会ったが、インターネットで何度も話をしている知人だと紹介した。MさんとT君に別れを告げて、駐車している彼女の自動車まで歩いた。