トリノ駅の薬局

 朝食は、ミネラル水を飲みながら、日本から持ってきた乾パンを少しばかり口に入れた。ローザンヌ(スイス)に行く途中、ミラノ駅で1時間半ほど時間があるので、そこでゆっくり昼食をすれば良いと考え、朝食は軽く済ませた。

 ホテルの主人に、丁寧に礼を言って4つの鍵を返すと、笑顔で見送ってくれた。8時少し前に鉄門扉まで旅行カバンを押して行くと、既に門の外にはG氏が待っていた。
 大きな声でお互いに「ボーナン マテーノン(おはよう)」と挨拶し、駅に向かって歩き出した。大通りが終わるところに、昨日私がペンションへの道を聞いた大きなホテルがあった。G氏は「こんな大きなホテルで訊いたのか」と驚いた顔を私に見せた。

 トリノ駅につくと直ぐに「薬を書いたので助けてほしい」とG氏に言った。攣りがちなった脚の薬だ。「痙攣(けいれん)する」というエスペラント語を知らない私は、昨夜初めて持参の梶弘和編『和エス辞典』を開いた。コンブルスィーイ(konvulsii)が、痙攣のエス語だと初めて知った。
 G氏に、ベツドで横になると、右脚が時々痙攣するのだと伝え、チューブ入りのクリーム薬はないかと店員に訊ねてもらった。G氏のおかげで薬は直ぐに手に入った。

 G氏が店員と笑いながら話していた。何でも「G氏は日本語を話せるのか」と店員が訊ねたそうだ。そこでG氏のエスペラント語の宣伝が始まった。そして私が2ヵ月間もエスペラント語だけで、10カ国も旅をするのだと、G氏が店員に説明すると、店員はとても驚いていた。