私の語学力

 一人で外国旅行をすると聞けば、多分最低英会話がなんとか出来て、他国の言葉も学習した経験があると思われがちだ。
 しかし私は高校卒業後就職したので中学と高校で習った英語だけである。それも45年以上も前のこと。つまり私の語学力は、簡単な英語の単語を少しは知っているが、その正しい発音は出来ず、会話など全く出来ない。

 こんな私がエスペラント語と出合ったのは、羽仁五郎氏の『自伝的戦後史』を読んだときだ。世界中の人々が、自国語(日本人は日本語)と世界共通語を学習すれば、習得困難な外国語に多くの費用と時間を掛けて取り組む必要はない、というものだった。なかでも私の心に強く響いたのは次の説明だった。

 女性は母親となって子どもを育てる。しかし育児や特に病気については何の知識もないと言っても過言ではない。図書館や書店に並ぶ多くの医学書は、ドイツ語か英語かフランス語などで書かれていて、一般人には理解できない。最も重要な医学書が世界共通語で書かれていたら、どれだけ母親は子育てに役立てられるだろう。これは人類にとっても大きな損失である。

 この本を読んで、私がエスペラント語学習を通信講座で始めたのは、35歳のとき、30年ほど前のことである。
 学習の殆どは独習に近く、エスペラント語の雑誌を読んだり機関誌を読んだり。
 本当にエスペラント語が通じるのか試したくて、ひとり旅をしたのは、15年前のプラハチェコ)で開催された世界エスペラント大会と、上海で開催された第1回アジアエスペラント大会だった。どちらも短期間の旅行だったが、それなりに通じることを確認できた。

 2ヵ月間に及ぶ今回の旅行目的は、パスポルタ・セルボの宿泊事情を知るためで、私のエスペラント語学力が少しは上達しているかどうかを試し、さらには私程度のエス語力で、2ヶ月間も一人旅が本当にできるのかを確認するための挑戦だった。